日本の現代社会においてアイドルは、時に大きな熱狂を生み出す存在でありながら、その裏側で人間らしい感情をルールで縛られる矛盾を抱えている。本作は、アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンターを務める女性が「恋愛禁止ルール」を破ったことで裁判にかけられる物語を通じて、華やかな世界の裏側に潜む孤独や犠牲、そして自己を取り戻すための闘いを痛切なリアリティで描く。監督は国際的に評価される深田晃司。実際の裁判に着想を得て約10年を費やし、企画・脚本も手掛けた。主演は元・日向坂46の齊藤京子が映画初主演で、アイドルの内面的な葛藤をリアルに体現。深田監督は「齊藤さんとの出会いがなければこの映画は完成しなかった。絵空事でしかなかった脚本に全身全霊で血肉を与えてくれた齊藤さんに心から敬服しています」と絶賛。共演には倉悠貴、唐田えりか、津田健次郎ら実力派俳優陣が集結し、作品に深みを与える。
人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンター。「恋愛禁止ルール」を破ったことで、所属事務所から訴えられる
1997年9月5日生まれ、東京都出身。アイドルグループ日向坂46の元メンバー。卒業後は俳優として映画やドラマでの活躍の場を広げている。主な出演作に、映画『#真相をお話しします』(25/豊島圭介監督)、『(LOVE SONG)』(25/チャンプ・ウィーラチット・トンジラー監督)、『教場 Reunion/Requiem』(26/中江功監督)、ドラマ「泥濘の食卓」(23/EX)、「いきなり婚」(25/NTV)、「あやしいパートナー」(25/MBS)、「娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?」(カンテレ・フジテレビ系)などがある。
偶然再会した真衣と恋に落ちる大道芸人
1999年12月19日生まれ、大阪府出身。2022年『夏、至るころ』で映画初出演ながら主演を務め、21年連続テレビ小説「おちょやん」で朝ドラ初出演を果たす。主な出演作に、映画『市子』(23/戸田彬弘監督)、『六人の嘘つきな大学生』(24/佐藤祐市監督)、『隣のステラ』(25/松本花奈監督)、『教場 Reunion/Requiem』(26/中江功監督)、ドラマ「SHOGUN 将軍」(24/Disney+)、「ガンニバル シーズン2」(25/Disney+)などがある。
「ハッピー☆ファンファーレ」のチーフマネージャー
1997年9月19日生まれ、千葉県出身。2018年、濱口竜介監督作『寝ても覚めても』で映画初主演を飾り、山路ふみ子映画賞で新人女優賞、ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞。日韓両国で活動し、近年の主な出演作に『朝がくるとむなしくなる』(23/石橋夕帆監督)、『ナミビアの砂漠』(24/山中瑤子監督)、『死に損なった男』(25/田中征爾)『Page30』(25/堤幸彦監督)、『海辺へ行く道』(25/横浜聡子)ドラマ『極悪女王』(24/Netflixシリーズ)などがある。
「ハッピー☆ファンファーレ」所属事務所の社長
1971年6月11日生まれ、大阪府出身。声優業、俳優業を中心に、映像監督や作品プロデュースなど幅広く活躍。声優としての主な出演作は、「呪術廻戦」の七海建人役、「ラーメン赤猫」の文蔵役、「ゴールデンカムイ」の尾形百之助役、『ONE PIECE FILM RED』のゴードン役など数多くのヒット作がある。2020年には第15回声優アワード主演男優賞受賞。24年には第53回ベストドレッサー賞芸能部門を受賞。俳優としての近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説『あんぱん』、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、映画『かくかくしかじか』(25/関和亮監督)、映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』(25/吉野耕平監督)などがある。
「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバー。グループ最年少でメンバーカラーは黄色
2007年5月29日生まれ、福岡県出身。アイドルグループ私立恵比寿中学の現役メンバーとして活動する一方で、俳優としても活動している。主な出演作に、映画『仮面病棟』(20/木村ひさし監督)、ドラマ「浦安鉄筋家族」(20/TX)、「ラブライブ!スクールアイドルミュージカル the DRAMA」(24/MBS)などがある。
「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバー。メンバーカラーは青
2001年3月25日生まれ、東京都出身。2018年に主演映画『最期の星』(小川紗良監督)でデビュー。主な出演作に映画『よこがお』(19/深田晃司監督)、『海辺の金魚』(21/小川紗良監督)、テレビ東京「痛ぶる恋の、ようなもの」(24)、『とりつくしま』(24/東かおり監督)などがある他、音楽家として25年に2ndアルバム『Tulsi』をリリース。
「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバーでリーダーを務める。メンバーカラーは緑
2000年2月19日生まれ、広島県出身。アイドルグループSTU48の元メンバー。卒業後、映像作品や舞台などで表現の幅を広げている。
「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバー。メンバーカラーはピンク
2004年5月6日生まれ、岩手県出身。アイドルグループいぎなり東北産の現役メンバー。映像作品への出演は今回が初となる。
2010年『歓待』が東京国際映画祭「日本映画・ある視点」作品賞、11年プチョン国際ファンタスティック映画祭最優秀アジア映画賞受賞。13年『ほとりの朔子』が、ナント三大陸映画祭グランプリ&「若い審査員賞」をW受賞。16年『淵に立つ』がカンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞、17年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。18年仏芸術文化勲章「シュバリエ」受勲。その他の監督作に、『さようなら』(15)、『よこがお』(19)、『本気のしるし〈TVドラマ再編集劇場版〉』(20)、『LOVE LIFE』(22)、制作中の新作に『ナギダイアリー(仮)』などがある。
脚本を務めた映画・ドラマ『本気のしるし』(19~20/深田晃司監督)が第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」に選出され、日本民間放送連盟賞番組部門「テレビドラマ番組」で優秀賞受賞、第3回アジア・コンテンツ・アワードで脚本賞にノミネートされた。その他の作品に、映画『夏の夜空と秋の夕日と冬の朝と春の風』(19/向井宗敏監督)、ドラマ「アイドル失格」(23/BS松竹東急CX系列)、「怖れ」(24/CBC)、舞台「あにてれ×=LOVE ステージプロジェクト「ガールフレンド(仮)」などがある。
総合音楽・文化プロデュースを事業領域とし、数々のヒットを生み出し続けるクリエイティブカンパニー。日本を代表する音楽ヒットメーカーが多数在籍し、YUKI、ゆず、Superfly、中島美嘉、JUJU、back number、米津玄師、いきものがかり、エレファントカシマシ、ポルノグラフィティ、Official髭男dism、あいみょん、Aimer、菅田将暉、幾田りら、緑黄色社会など、第一線で活躍するアーティストや国内外の大ヒット音楽を数多く手がける。これまでに手がけた作品のパッケージ総売上枚数は1億5,000万枚を超え、YouTubeでの総再生回数は200億回以上。
2001年、大学在学中に映画美学校フィクション・コース第6期初等科に入学。高等科修了後、撮影助手として映画やMVなどの撮影に参加。のちカメラマンとなる。主な映画作に、『Playback』(12/三宅唱監督)、『ミスミソウ』(18/内藤瑛亮監督)、『宮本から君へ』(19/真利子哲也監督)、『ドライブ・マイ・カー』(20/濱口竜介監督)、『違国日記』(24/瀬田なつき監督)、『敵』(25/吉田大八監督)、『ファーストキス1ST KISS』(25/塚原あゆ子監督)などがある。18年には三宅唱監督作『きみの鳥はうたえる』で第73回毎日映画コンクール撮影賞を受賞している。
東京芸術大学大学院映像研究科を卒業後、主に映画製作の現場に照明助手として従事。
照明助手として従事したのち、19年から照明技師としての活動を主軸に映像制作に関わる。
主な映画作に、『泣く子はいねぇが』(20/佐藤快磨監督)、『あのこは貴族』(21/岨手由貴子監督)、『マッチング』(24/内田英治監督)、『水深ゼロメートルから』(24/山下敦弘監督)、『ショウタイムセブン』(25/渡辺一貴監督)、『近畿地方のある場所について』(25/白石晃士監督)、『海辺へ行く道』(25/横浜聡子監督)、『君の顔では泣けない』(25/坂下雄一郎監督)などがある。
録音技師やサウンドデザイナーとして数々の作品に携わる。主な映画作に、『風の電話』(20/諏訪敦彦監督)、『音楽』(20/岩井澤健治監督)、『Arc』(21/石川慶監督)、『窓辺にて』(22/今泉力哉監督)、『さかなのこ』(22/沖田修一監督)、『白鍵と黒鍵の間に』(23/冨永昌敬監督)、『ネムルバカ』(25/阪元裕吾監督)、『夏の砂の上』(25/玉田真也監督)などがある。
SNS発のソロ・シンガー。
2020年4月にオリジナル楽曲「春を告げる」で鮮烈なデビューを飾り、TVアニメ「SPY×FAMILY」のED主題歌「色彩」や、TVアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のOP主題歌「slash」など多くのヒット曲を抱える。
2026年1月21日(水)配信リリース
自分が選んだことを後悔しないと誓っても、人は欲望や期待に目が眩んで自分を見失ってしまうこともある。そして、次第に理想の自分から離れていくことへの葛藤と足掻きが生まれる。それもまた人間らしさであるともいえるのかもしれない。夢とアイデンティティの狭間で揺れ動きつつ、理想とは違う自分だったとしても、その弱点すらもいつか愛せるように、許せるように。そう願いを込めて歌っています。
主題歌「Dawn」、映画とともにお楽しみいただければ幸いです。
私がアイドルになった時からずっと心にひっかかっていた矛盾。それを言葉にしてしまってはいけなかった、その矛盾を芸術とにごして来ていたんだと思う。アイドルが背負わされる十字架を作品にして下さったのが、救いでした。
正真正銘、アイドルのリアルを描いた映画。
夢を追うとは、これほどに美しくこれほどに残酷なのか。
光と影の二面性、アイドルの在り方・ファンの在り方、その強烈な問いに心がズキズキと痛み、気づいたら涙が溢れていた。
アイドルである人、アイドルを目指す人、アイドルを応援する人、全てに届けたい。
人を好きになる気持ちを他人に裁かれる筋合いはない。
しかしアイドルは別である。「ファン」という「集合体」としか恋愛を許されてない彼女たちは特定の人を好きになることを憚られる。
「人を好きにならないわけがない」それでもその感情が可視化された瞬間に魔法が解けたようにその子から気持ちが離れてしまう。アイドルってなんなんだろう?ファンってなんなんだろう?
この映画を観て、まず最初に思った事。
それは"この映画、観なきゃ良かった"だ。
アイドル好きの僕としては、アイドル側よりも、ファンの人に自分を重ねて感情移入してしまった。
アイドルが命を掛けているのと同じ様に、ヲタクだって命を掛けて本気で推しているんだ。
是非、この映画を観て欲しい。そう!隠れて恋愛している全アイドル諸君に。
夢の始まりはどこだったのか。
誰のために、何のためにその道を選んだのか。
自分はどこへ向かいたいのか。
アイドルはみんなの“もの”として輝き続ける存在。
でもその内側には、ひとりの“人間”としての鼓動が確かにあることに気づかされる。
仲間、グループ、ファン、恋人への想いとともに、恋愛禁止という暗黙のルールへの違和感がゆったりと折り重なっていく。アイドルを愛し、大切に丁寧に想うってきっとこういうこと。
※一部本編のストーリーに関わる内容が含まれています。
本作未鑑賞の方はご注意ください。
津田 もちろん深田監督の新作だというだけでも興味がありました。題材としても、深田監督がアイドルというテーマを撮るという意外性も含めて興味があったので参加させてもらいました。自分が演じる役が事務所の社長の役だということはわかった上でオーディションを受けました。
深田 自分ができるだけオーディションで俳優と出会うことにこだわっているのは、業界にもっとオーディションが増えるといいなと思っているところはあるんですけど、ミスキャストを減らしたいということもあるんです。キャスティングを検討する段階でまずは過去作を見たりはするんですけど、過去作は過去作でしかなくて、脚本や監督が変わると演技も変わってきます。役にハマらないとお互いに損をしてしまう結果になるので、キャリアのある方でも、もしよければ脚本を読んで頂き、まずは台詞を聞かせて頂ければと思いました。
深田 やっぱり声がすごくいいなと思いました。津田さんが演じる吉田という役は、主人公のアイドル真衣が所属している事務所の社長で、その社長としての“圧”をどこまで描くかの匙加減が難しいんです。描きたいのは事務所が悪いんだということよりも、業界の構造の問題。でも社長の圧が少なすぎると物語に説得力がなくなってしまう。津田さんの声に艶と凄みがあったので、この声ならば事務所の持っているプレッシャーが表現できるかもしれないと思いました。吉田社長のちょっと軽みのある部分、ひょうひょうとした部分も、オーディションでお芝居してもらいました。ふたつくらいのシーンを読んで頂いて、とてもいいなと感じました。吉田というキャラクターは動き回らないので、動きというよりは、セリフを聞かせてもらうと言う感じで座って読んでもらったはずです。
深田 なかなかバタバタしていて話す時間が取れなかったんですね。でも、津田さんの初日の撮影の合間に時間があって、お互いにこれまでどんな仕事をしてきたかとか、演技についてお話しすることができした。僕の中での津田さんは、アニメの声優として素晴らしいお仕事を残されていたイメージもあったんですが、津田さん自身は、実写の仕事で、しかもリアリズム寄りのお芝居に挑戦したかったんだという話をされていたので、やっぱり出てもらってよかったなと思いましたし、同じ方向を見てる人なんだなと感じました。
津田 完成した映画を見させていただいたのですが、作品を通してすごく抑制の効いた演技になっていたと思いました。要は記号的な演技ではないので、観客がこの人は何を考えているんだろうと想像できる。そういう演技をさせていただけることって、余白があっていいなと思いました。
深田 確かに、フィルモグラフィを見ただけだと過去の役でイメージが固まってしまうので、オーディションで話してみることで、どういう芝居の方向性が好きなのかを知れていいですよね。オーディションでなかったら、そういう出会いにたどり着くのって難しかったかもしれない。声優の世界はオーディションが当たり前と聞きますけど、実写の世界もそれを見習うべきだと思いますね。
津田 オーディションシステムに関しては、深田監督に頑張って広めていただきたいですね。
深田 僕もできれば芸能事務所も巻き込んでオーディションに関しては議論してみたいんです。オーディションが少ないと、新人の若い俳優にもなかなかチャンスがないですし、キャリアを積んだ俳優も、自分で役を選んだり新しい挑戦がしづらくなっていくから、受け身になってしまう。人気者になればなるほど役を待つしかなくなってしまいます。『恋愛裁判』の扱う主体性の問題は、アイドル業界だけでなく、いろんな業界でも共通する部分があると思っているんです。例えば俳優の世界でも、事務所との関係性の中でどこまで自由が許されているんだろう、じゃあ、俳優の主体性ってなんだろうという話になるので、実は『恋愛裁判』の話はいろんな業界に繋がることだと思います。
津田 恋愛にまつわる裁判というとキャッチーではあるんですけど、そこはいろんな業界とか、日本や世界にも通じる何かっていうものはあると感じますよね。
津田 イメージは持っていきますし、全体における役割、シーンにおける役割、いろんなことは準備していきましたけど、やっぱり現場が命だとも思いました。もしイメージと違ったら、深田監督がこうしましょうと言ってくれると思っていたので、わりとフラットに入った感じです。
津田 首が揺れるのを止めましょうというのはありましたね。
深田 それは自分の演出の定番ですね。いろんな俳優さんによくお願いしてることが3つあって。ひとつは、首の揺れ。セリフを言おうとする俳優さんは首で台詞のリズムとりがちなので。それと、ジェスチャー。演技をしようと身体が準備してしまっていて、いつもよりジェスチャーが増えてしまう。特に指差しは多いので、それを抑えて頂くことはよくあります。また、長台詞の前で息継ぎをしてしまうこと。台本を読んでいる俳優は、次に長い台詞が来ることを知ってしまっているから、つい息を吸って準備してしまうんですけど、普段は自分の次の言葉が長いかどうかなんてそんな意識しながら話さないですよね。初めて一緒に仕事をする方とは、最初の本番のワンカットを撮るまで、楽しみでもありドキドキもあるんです。でも津田さんの場合、撮り始めてみたらすっとハマってくださって。しかも、僕は映画は集団の芸術だと思っているので、提案してくれるタイプの役者さんが好きなんです。今回の津田さんも、例えば演技の途中で眼鏡をはずすという芝居を提案をしてくださって。眼鏡をはずすことで、ある問題を起こしたアイドルの菜々香に対して、無意識的な“操作”をしているようなところが出ていてよかったですね。
深田 予想外だったところは、本当に津田さんは現場がお好きだということです。撮影は照明や機材のセッティングで待ち時間が長いんですけど、津田さんは控室よりも現場にいることが多くて、よく様子を見られてましたね。そのときに喋ったことで印象に残っているのは、劇中のアイドル、菜々香が問題を起こして、説教する場面ですごく静けさがあったんですけど、静けさが菜々香にとってのプレッシャーになると津田さんは考えられていて、あくまでも静かな空間で、静けさを壊さないまま、淡々と説き伏せていくという演技をされていたことです。事務所の社長が強引に説得するのではなく、アイドル自身が自分で選択して恋愛を放棄したように誘導する、それが大人の狡さなんですけど、淡々と静かにその力関係が成立していたので、あのシーンはよかったなって思いました。
津田 圧をかけるのにもいろいろあると思うんです。怒鳴ったり暴力的なものと、静かに追い込んでいくというものとか……。追い込まない圧って、大人の狡さがすごく溢れていて、「自分で選んだんだよね?全てはあなたの選択だし、僕らはサポートしてるんだよ」というロジックが見えてより怖いなと思ったので、そう演じました。すごく複雑で二元論ではないんですよね。しかも、吉田はその後、事務所が大きな会社に吸収されて雇われ社長になる。そういうところもすごく複雑ですし、何が強者で何が弱者かわからない。そういうところもすごく面白い映画になっていると思います。
深田 吉田が菜々香を追い詰めるシーンは撮影が始まって二日目か三日目で、しかも津田さんは初日だったんです。でも、このシーンを見たことで、スタッフ一同、この映画はいけるって思ったと思います。それくらいあのシーンは重要だったんです。そういえば、『恋愛裁判』は全体的に夜のシーンが多くて。脚本を書き始めてから気づいたんですが、アイドルはお忍びで恋人と会わざるをえない以上、当然、夜のシーンが多くなってしまうんですよね。
津田 朝日が昇る映画でもあるので、そこにたどり着くまでは夜が支配してないといけないんですよね。そうでないと、朝日の感動が生まれないので。だから、昼間のシーンであっても夜の印象があるかもしれないですね、裁判シーンも夜ではないけれど……。
深田 あそこは日が差さないですからね。個人的に、裁判のシーンの津田さんがすごい好きなんです。津田さんは、前半で声の圧力を十分発揮してくださったんですけど、後半の裁判のシーンでは、逆に一切しゃべらずにただ座っているだけでプレッシャーを与えているんです。唐田えりかさん演じるマネージャーの矢吹早耶が話すときにも常に吉田は横に居て、微動だにしないんだけれど、なにかしら、早耶は吉田の圧を感じながら喋っているという感覚が滲み出ていて、凄みがあってよかったですね。
津田 かつて早耶が何をしていたのかがわかるシーンがあるんですけど、それを知ったことで、「この子はいったいどういう思いでマネージャーをしたんだろう」っていう想像が広がるんですよね。奥深い脚本だと思いましたし、すごくリアルでした。
深田 そこまで吉田の背景については津田さんに説明していないんですけど、今回書いた小説の方に、どんな経緯で社長になったのかは書いています。
津田 設定は聞いてはいないんですけど、吉田には、どこか軽さがあるんですよね。それを監督は“ひょうひょうとしてる”と表現していましたが、その軽さがすごく罪だったりします。所属アイドルのことも、心配してるようでしていない。「怪我は大丈夫?」というべきところを「怪我ないよね?」と決めつけて言うんですよね。実はああいうところに人は傷ついていくんじゃないかなと思いました。
深田 あるトラブルの起こった後に吉田が遅れてやってくるシーンなんですけど、そのときの吉田の態度がすごくうまいんですよね。本能的にトラブルを小さく見せようとするという責任者としての狡猾な態度が見えて。アイドルにどれだけのことを負わせているか、ファンとアイドルのことについてもそこまで把握していないこととか、いろんなすれ違いが出る場面での津田さんの匙加減がよかったですね。
津田 確かに立ち位置的にもそうなんですよね。アイドルを好きな方がこれを見てどう思われるか興味がありますね。どこかアイドルという文化や構造に対して、「大丈夫ですか?」という疑問も提示されていますし。一方で、アイドルを支えているスタッフさんや、応援する方々への、優しい目線も感じられて、面白い構造だなと思います。
深田 東京国際映画祭ではアイドルファンの方も見てくださって、今のところ拒絶反応もなくて、むしろ「誰かを推している人は見るべきだ」という意見も出てきていて、それはこちらとしては嬉しい反応です。考えるきっかけとなる作品だと受け止めてもらっているみたいで。
深田 人権というと大上段に聞こえてしまうかもしれないんですが。今回の作品は、10年前に、アイドルが恋愛をして裁判を起こされ、その根拠が契約書にあったという実際に起こった出来事が発端で、それに対して違和感を持ったことが出発点になっています。だから、当然、人権という視点はあるんです。でも、映画が自分の思想をおしつけるものになってはいけないとも思っているので、それをどう受け取るかは、観客に委ねているつもりです。この作品をみることで、その人の恋愛感やアイドル感が、炙り出される鏡みたいになるといいなと思っています。真衣の選択を肯定的にみる人も、そうでない人もいるだろうし、いろいろだと思います。真衣がこの映画の主人公だけど、彼女の周りのアイドルたちの生き方も提示しているので、どこに共感するかは人によって違うだろうなという作りにしています。
津田 非常に多面的な映画ですよね。共感できるできないで見ることもできるし、人権という観点で見ることもできる。ほかにも、ビジネスの視点でも見ることができます。吉田の視点だと、社長として彼女たちに投資をしているんですね。その投資が、メンバーの暴走によって壊れていくのはビジネスとしてはありえないと思う人もいるわけで。非常に複雑だけど、テーマとして、とても興味深いですね。
深田 本当に難しいですよね。恋愛をするのもしないのも本当に個人の自由だと思うんですね。要は、その選択にどれだけの主体性があるのかということ。吉田が本人に選ばせてるようでいて誘導している場面を見ればわかるように、本当に事務所がアイドルの主体性に過度に関与していないのか。あるいは「やっぱり恋愛してほしくない」というファンダムの思いもまた、アイドルの主体性に影響を与えているはずで。だったら、「アイドルなんだから恋愛しなければいい。恋愛したければやめればいい」という話になると、それもまた難しい議論で、そもそも人権侵害を前提としないと成り立たない職業になってしまう。結局、映画業界だって同様の問題を抱えていて、だから今、働き方を改善しようとしているわけですけど、それでは以前のようには映画を作れないといって反発をしてしまうと、じゃあ徹夜での作業やセクハラやパワハラのような人権侵害を認めてしまうのかと。それって「人権を侵害しなければ、この業界は成り立ちません」と宣言するようなものなので。業界の自殺に等しいと思っています。今、私たちのいる環境を当たり前だと思っていても、一歩引いてみると当たり前じゃないことは多くあります。自分たちの固定化した考えで捉えてきた恋愛について、アイドルについてを、この映画が、ちょっと立ち止まって考える機会になればいいなと思っています。
interview & text:西森路代
Commentsコメント
深田晃司監督コメント(カンヌ国際映画祭出品に際して)
構想から気づけば10年もかかってしまったこの映画を、最高のかたちでお披露目できることを嬉しく思います。ひとつ言えることは、主演の齊藤京子さんとの出会いがなければこの映画は完成しなかったということです。絵空事でしかなかった脚本に全身全霊で血肉を与えてくれた齊藤さんに心から敬服しています。また、長年に亘りこの企画を信じて導いてくれたプロデューサー陣、現場を支えてくれた最高のスタッフ、キャストには感謝しかありません。ぜひ多くの人にこの映画を楽しんで欲しいです。
齊藤京子コメント山岡真衣(やまおか まい)役(カンヌ国際映画祭出品に際して)
映画「恋愛裁判」が第78回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門に出品されると聞いたときは、本当に夢のようで言葉にできないほど嬉しかったです。
深田監督、スタッフキャストの皆さん、この度は本当におめでとうございます。
この映画をたくさんの国の方々に観ていただけることが楽しみです。
深田監督とご一緒させていただけたことを、心から光栄に思います。
倉悠貴コメント間山敬(まやま けい)役
この作品のオーディションを受ける際、まるで運命のようなものを感じました。
先日、完成した作品を拝見し、自信を持って素晴らしい映画だと確信しています。
現代社会において、この作品を届けることができる意義を深く感じ、全力で取り組ませていただきました。
真衣と敬の恋愛がどのように展開していくのか、その行く末をぜひ見届けてください。
唐田えりかコメント矢吹早耶(やぶき さや)役
大念願の深田晃司組でした。
深田監督とお仕事をすることが、二十歳から私の目標のひとつであり、言葉にしつづけてきました。
オーディションに受かったと聞いたときの喜びは今でも忘れられません。
先日完成した本作を見て、映画があることの意味を改めて感じました。
人生は選択の連続であり、様々な人生の可能性があること、どんな可能性にでもなり得るということ、忘れずにいたいです。
深田組の皆さん、カンヌ国際映画祭出品おめでとうございます。
この挑戦的な意欲作を是非見届けてほしいです。
津田健次郎コメント吉田光一(よしだ こういち)役
世界を舞台に活躍されている深田監督の作品に出演させて頂ける事をとても嬉しく思います。しかも今回はアイドルを題材にした映画です。勿論脚本は読んでいますし、撮影も終わっているのですが、あの深田監督がどんな風にアイドルを描いたのか興味が尽きません。アイドルを描く先に広がる深田ワールド、劇場で観られるのが本当に楽しみです。皆様も楽しみに待っていて下さい。